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大和と武藤
家ではないどこかに帰りたいという感覚が大和にはある。山育ちでありながら、大和は海が好きだった。空と海の交わる場所を見つめ、耳をすませる。人気のない砂浜に座っていると、風の合間に海の向こうから呼ばれるような気がした。この海では、幾人もの若者が戦死したという。霊感などというものを大和は持ち合わせていないが、遠くない過去を思うと焦燥感が背筋を這い上がってくる。(あそこに帰らねぇと)どこかも知れぬ場所へ、大和は帰りたい。
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大和と武藤
飛行機雲のあとを目で追ってしまう癖が、武藤は嫌いだった。そもそも飛行機という乗り物に対して武藤は懐疑的である。鉄の塊が空に浮かぶ事自体が、不思議なのだ。不思議だからこそ見るのか。探るようにジッと見つめる瞳を自分の意思でも引き剥がすことができず、武藤は青空を見た。消えない白い尾を眺めていると、無性に消えてくれるなと思う。飛行機雲が消えないのは雨が降る前触れだと聞いたことがある。青空が流す涙の理由を知らないはずであるのに、頬を濡らす涙の冷たさに武藤は身震いする思いがした。(   )叫びたいのに、叫ぶ言葉を武藤は知らない。
#学生戦争
八代と武藤
相容れない、と八代は思った。武藤と八代の考えは平行線どころか対極をいく。西国への侵攻に消極的な男の胸ぐらを掴んで問うてみても理解しがたい答えが返ってくるのみだ。「国を棄てた奴らは守るべき民ではない」という主張を、武藤の澄んだ眼が、まるで判定するように見つめる。見透かしたようなこの鶯色の瞳が、八代は大の苦手だった。(埒があかない)この男は、いずれこの軍にとって厄となるだろう。手を離し、最後に「この戦に勝つ気があるのか」と問えば、武藤は薄く笑って「戦の勝敗は本質じゃない、目的のためなら勝ちなどくれてやる」と言った。
#学生戦争
グレイスとシェイナ
人種と言ってもいい。ある種の人間がシェイナは苦手だ。「お前は好き嫌いが激しいな」気に入らなければ切って捨てるようなグレイスに、シェイナは首を振った。「相手が私を嫌いなんです」俯いて言った言葉に、グレイスは笑った。嫌悪するのが当然だと、珍しく感情を否定しない女が可笑しかった。
#コントラクター
大和と武藤と茜
「こういうのは形も大事なのよ」と茜は言った。広げられた紙には受理されない婚姻届の文字が印字されている。「お兄様はすぐ別にいいんだって言うけど、良くないの」夫となる者の欄に既に書かれた丁寧な『大和』の文字に苦笑する。ペンを持った武藤は、しかし「俺が妻なのか?」と手を止めた。
#学生戦争
大和と武藤
出逢えたことを奇跡とは呼ばず、大和は運命と言った。必然でも偶然でもない。武藤と出逢わなかった人生の道について、大和が考える事はない。出逢ったこの道が、武藤と生きると決めたこの道こそが、大和の人生なのだ。
#学生戦争
大和と武藤
熱が身の内を穿つのを、武藤は血の上った頭で感じた。燃えるように頰と尾骶が熱く、一方で晒された肌の表面は冷えていくようだった。頭蓋と腹の内側をかき混ぜられる感覚に、武藤は口内の柔らかい肉を食んで目を閉じる。(熱い)名を、呼ぼうとした声は、二人の熱に溶けて飛散した。
#学生戦争
武藤
静かな夜の帳の中で、武藤はそっと目を閉じて熱に手を伸ばした。思い出すのは、あの暗闇だ。動物は、痛みより快楽を記憶するらしい。(こんな事は間違ってる)頭では理解していても、手の動きは止められない。唇を食んで、溢れ出た熱に息を吐いた。急速に冷える脳が、闇が、堕ちた武藤を嘲笑う。
#学生戦争
ロリポップとコップ
「帰ってたの」とコップはまるで朝以来のような顔で言った。家の鍵を置いたコップは、恐らく今日がロリポップの出所日だと知っていて、この家を片付け、ここに帰宅したに違いない。数年ぶりの恋人との再会に甘さを求めない彼女の、見えない行動に愛らしさが募りロリポップは手を伸ばした。ベットに膝を乗り上げ、見下ろした男の顔を両手で包む。女性のようなその美しい顔立ちに、コップは不機嫌に眉を寄せた。「何よ」オネエ口調で笑う男の瞳は、しかし雄の目つきでコップを見上げている。コップは咥え煙草を灰皿に押し付け、息を吹きかけた。
#Mad quintet
大和と武藤
武藤は「あるべき姿」と言うものを求めている。杓子定規な事が多いのはそれが理由かと気づいてから、この男にとってこの世は生き辛くて堪らないだろう、と大和は思った。ままならないことしか無い世で、武藤は理想論を掲げている。その姿が、大和にとっては時に嫌悪を抱かせた。一方で、武藤にとって生きやすい場所を与えたい、とも思う。肩の力を抜いても良いと思える場所(ホーム)を、武藤は恐らく知らない。小綺麗な聖人君子のような男より、わがままで頑固な武藤の方がよほど愛したくなると大和は思う。だからこそ、武藤の張り切った何かを解してやりたかった。
#学生戦争
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